指関節は一軸性 ???

 

指を観察すればいろいろと面白いことに気がつきます。

まず、親指と残りの4本との違い。
指を伸ばした状態では、わずかな差こそあれ親指以外は手のひらと同一面上に位置しています。
 
でも親指はどうでしょうか?

手掌面とはかなりズレているのがわかります。
で、そのズレの調節は第一中手骨の動きが行っています。

よくできていますよね。
 
指の大切な役割として「つまむ」という動作があります。
これは親指と他の指で行いますが、よく見るとつまみ動作は指先の先端中央同士では行われていないのです。
しかも指が屈曲する時にはその接点が合うようにわずかな回旋を伴っている。
この「対立運動」が繊細に行えるおかげで緻密な作業が可能になっているんですね。
 
ところで、指関節は一軸性となっていますが本当にそうでしょうか? 
 
見た目には「屈伸」しかしないわけですからこれから見れば一軸性でしょう。
 
で、とりあえず、四指(親指以外)の屈曲を考えてみました。
解剖学の本を見ると浅指屈筋・深指屈筋の主動により指が引っ張られて屈曲する、とあります。
 
じゃぁ、屈曲して指先が到達する目的方向へブレないで、しかも正確に行えるのは何故か?
浅指屈筋腱・深指屈筋腱をキープしている腱鞘でその役目がはたせるのか?
 
  NO!
 
腱鞘では大ざっぱな腱のブレは制御出来ても細かな方向付けは出来ません。
 
ではどうやって?
 
実は「屈曲」と別軸の運動も加わっているのです。
しかも、その運動を制御する力も働く。
さらに同じ屈筋でも2種類の屈筋(浅指屈筋・深指屈筋)が付いている場所が違う。
最後に伸筋がこれまた当然違う場所に付いて逆方向から働く。

これだけの要素が有るため、指は巧緻運動が出来るのです。

ここで重要なポイントを2つ考えてみました。
 
まず、別軸の運動について。
これは「回旋」なのですが、単なる回旋ではなく「屈曲に伴う回旋」運動です。
言い換えれば屈曲ベクトルが必須要素となっている回旋運動なのですが、これには外旋と内旋があります。
「つまみ動作」でわかったように、親指以外の四指はその形状から屈曲時には親指と反対方向に回旋します。(構造的軸回旋)
すなわち、「屈曲に伴い親指とは反対側に回旋する」ということです。

逆にその回旋を打ち消す反対方向の回旋は後述するように虫様筋が行っていると推測できます。(機能的軸回旋)
虫様筋は不思議な筋であり、掌側にある深指屈筋腱から側索に移行して伸筋腱膜と合流し末節骨(指先の骨)背側に付いています。
つまり、掌側と背側を連絡する筋ということ。
MP関節を(橈側を通って)またいでいるのでMP関節は屈曲させますがIP関節は伸展させます。
骨間筋と違って虫様筋はMP関節の位置の如何に関わらずIP関節の伸展をある程度受け持っています。
 
この「ある程度」がポイント!
 
また、最もすごい機能としては虫様筋には筋紡錘が多いということ。
収縮力の調節が瞬時に行えるので、総指伸筋と合わさって行われる「指先への遠心性収縮力の総和」をコントロール出来るのです。
 
な、なんてスゴイ機能でしょう!

ここで、指先の屈伸運動での総指伸筋と虫様筋の働きについてまとめてみますと、
 
 1. 普通に指を伸ばす時 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 総指伸筋の求心性収縮
 2. 屈曲力を重視して指を曲げる時 ・・・・・・・・・・・ 総指伸筋の遠心性収縮
 3. 方向性を重視して指を曲げる時 ・・・・・・・・・・・ 虫様筋の遠心性収縮
 4. 屈曲力と方向性を重視して指を曲げる時 ・・・ 総指伸筋と虫様筋の遠心性収縮

 
さらに、さらに、虫様筋は「側索」にも付いているが、この側索は「橈側の側索」だというのです!
これが何を意味するかというと、「MP関節の屈曲に伴い指を親指側に回旋させる」ということ ・・・・・・・・・ だけでなく、「MP関節を屈曲させながら指の回旋をコントロールする」ということです。

屈曲に伴う構造的回旋度を微妙に調節しているんですね。

そこまでやるか虫様筋 !!

で、
 
もう一度これを順序立てて説明してみますと、
 1. 指の屈曲スタートは外在筋である浅指屈筋が出動 → 指を曲げるぞ〜 !!
 2. 次に深指屈筋が出動 → 若干の方向性をキープするぞ〜 !!
 3. 屈曲に伴い指骨の形状により親指とは逆方向への回旋スタート → か、勝手に回旋し始めたぞ〜 !!
 4. 虫様筋により親指側への回旋開始 → 回旋度の決定で指先をどこに向けるか決めるぞ〜 !!
 5. 虫様筋が筋紡錘の働きにより遠心性収縮力を調節。
   総指伸筋と共同運動する指先への総合遠心性収縮力をコントロールする → 伸筋・屈筋で付着部が4箇所以上もあるのでブレないぞ〜 !!
 6. 屈曲方向と回旋方向のベクトル合成開始 → これで完璧にブレないし微妙な方向性も決定したぞ〜 !!
  
となる訳です。
  
親指の場合にはCM関節からの動きにより屈曲 → 円運動まで多彩な動きを見ますが、母指伸筋群や母指外転筋群によりそれらの運動の安定化は担保されています。
 
単純な「指の屈曲」だけでもいろいろな事柄が関わっていることをご理解いただけましたか?